実践例:自分の頭を叩き続けてしまう

実践例:自分の頭を叩き続けてしまう

ワークシート1:(基礎情報)

おわかりになる範囲でご記入ください。

年齢 12歳
性別
診断名 自閉症
所属 特別支援学校
知能検査 検査名 新版K式発達検査2001
検査結果 DQ 9
特徴 無発語。他者に対して何か要求がある場合に、促されると両手を軽く合わせるサインが出る時もあったが、自発的に使用するまでには至っていない。常時うつむき加減で視線が下を向いていた。「うー」といった小さな唸り声が続くことがよくあった。日常生活の簡単な指示は、指さしやジェスチュア―を添えて呈示され、それに従うことはできた。

 

ワークシート2:(MASDurand とCrriminsが1988年に発表した、行動問題の機能を探るための質問紙。16の質問項目からなり、7段階のリッカートスケールで評価を行う。評価の結果をもとに、物や活動の獲得要求、注目要求、逃避要求、感覚要求の4種類の機能のいずれが当該行動の機能である可能性が高いのか、推測することができる。主観的な評価ではあるが、信頼性や妥当性が確認されている

お子さんの 自分の頭を叩く という行動についてのMASの採点結果

感覚要因 逃避要求 注目要求 物や活動の要求
1. 2. 3. 4.
5. 6. 7. 8.
9. 10. 11. 12.
13. 14. 15. 16.
合計= 11 14
平均点= 2.75 3.5 2.0
順位=

 

ワークシート3:(行動問題の特徴)

1. その行動はいつ起こることが多いですか? 1日中
2. その行動はどこで起こることが多いですか? どこでも
3. その行動は誰に対して、あるいは誰と一緒のときにおこることが多いですか? 特定の人は決まっておらず、誰とでも
4. その行動は何歳くらいから始まっていますか? 2歳くらい
5. その行動はどのくらいの頻度で起こりますか?
(たとえば、1日に2,3回、1時間に1,2回、1週間に1,2回など)
寝ているときを除いた時間のほとんど
6. その行動はどのくらいの強さで起こりますか?
(たとえば、隣の部屋に聞こえるくらいの声、叩いたところが青くなるくらいの強さなど)
パンパンと軽い音が近くにいる人に聞こえるくらい
7. その行動が起こっている様子を具体的にご記入ください(「他害」というのではなく、頭を自分のこぶしで叩くなど) 両手あるいは片手の手のひらやこぶしで自分の両側頭を叩く
8. その行動に対して、どのように対応しますか?
該当することに○をしてください
〇放っておく・要求しているものを渡す・〇好きなことをやらせる・その場から離す・注意する・〇指示していることを取り下げる・クールダウンのための手続きをとる(具体的には )・その他(         )
9. その行動は上記の方法で収束しますか? 収束することもある
10. その行動はどのくらいの時間続きますか? 4,5分から1時間以上
11. その行動と関連していると思われる項目があれば、○をして具体的に記入してください。 なし
12. お子さんが特に興味や関心の高いことは何ですか?また、こだわりはありますか? 体を動かす遊び(自転車に乗って押してもらう、おんぶや抱っこで回してもらう)きらきらしているもの、鏡、ピンク色のものなど
13. お子さんが苦手なことや嫌いなことはどんなことですか? 難しい課題や指示を呈示されること
14. お子さんの主となるコミュニケーション手段は何ですか? やってもらいたいことがあるとき、ほしいものがあるときに促されれば手を合わせたサインをする
15. 左記の項目において、お子さんの好きなことがあれば、具体的にご記入ください。 遊び(体を動かすこと)
キャラクター(                     )
歌手(                          )
食べ物(                        )
趣味( 図鑑を読むこと               )
その他(                        )
16. お子さんが人とのかかわりで喜ぶことはどんなことがありますか?先の項目において該当することがあれば具体的にご記入ください 拍手・頭なで・ハイタッチ・握手・くすぐりなど
遊び(                         )
賞賛(                         )
お手伝い(                       )
儀式的なやり取り(                 )
お出かけ(                      )
お小遣い (                     )
その他(                        )

ワークシート5:(スキャッタープロット)

1日1列で記入します。1行目に観察を行った月日を記入してください。それぞれの記号の意味は観察する行動の状態に応じて決めてください。時間は必ずしも1時間ごと30分ごとなど等分する必要はありません。
観察する行動: 自分の頭を叩く(学校)
観察開始日:5月10日(月)  観察終了日:5月21日(金)

記号の意味:□=ほとんど起こらなかった レ=活動の半分以上で起こった =止まらずに起こり続けた

活動 時間 10 11 12 13 14 17 18 19 20 21
登校 9:00
朝の着替え 9:10
朝の会 9:30
移動 10:00
1時間目 10:10
休み時間 11:00
2時間目 11:10
給食準備 12:00
給食 12:15
後片付け 13:00
休み時間 13:10
3時間目 13:30
着替え 14:20
帰りの会 14:30
下校 15:00

Touchette,MacDonald,& Langer(1985)を参照に小笠原が修正

ワークシート7:(頭の中のアセスメント)

行動問題が生じているときの子どもの頭の中(気持ち)を想像して吹き出しに書いてみましょう。複数挙げることが大切です。

ワークシート7:(頭の中のアセスメント)

ワークシート8:(ABC分析)

行動問題の直前に起こっていることをきっかけの箱に、具体的な行動を行動の箱に、行動の直後に起こった結果あるいは周囲の対応について結果及び対応の箱に記入しましょう。ほかの人がみても書いた人と同じことを思い浮かべることができるように書くことが大切です。行動問題が起こる状況がたくさんある場合には、必要に応じて、箱を増やしてください。

きっかけ 行動 結果および対応
休み時間 頭を叩く 放っておかれる
きっかけ 行動 結果および対応
指示や課題の呈示 頭を叩く 先生から手伝ってもらう
やらなくていいことになる

支援計画

支援方針

  1. なにもやることがない休み時間に遊べることを増やす
  2. 手伝ってほしいとき、やってほしいことがあるときにお願いするサインを定着させる。反対に、出来ないときややりたくないときにいやというサインを形成する。
1に対するアプローチ
きっかけ 行動 結果および対応
休み時間におもちゃ箱を設置 おもちゃで遊ぶ 放っておく
先生から褒められる

 強化子アセスメントその人の行動の直後に出現することにより、その行動が将来起こりやすくなるようなものや出来事がなんであるのか、査定すること。をしたうえで、好きなおもちゃを複数おもちゃ箱の中に入れておく。おもちゃ箱を教室の後ろの棚の上に置く。休み時間におもちゃ箱で遊ぶように誘う。おもちゃで遊んでいることを「一人で遊んでいられてエライね」「おもちゃ遊び楽しいね」などと声をかける。

2に対するアプローチ
きっかけ 行動 結果および対応
給食、休み時間に好きなものと嫌いなものの二つを呈示。「どっちがいい?」と一つずつ前に出して聞く 好きなものに対しては「お願い」のサイン、嫌いなものについては「いや」のサイン 「お願い」のサインではそのものを渡す、「いや」のサインでは取り除く

 給食時と休み時間を指導機会として、2種類のサインを指導していく。好きなものと嫌いなものを持ち、一つずつ前に出して「どっちを食べる?」「どっちで遊ぶ?」と聞く。しばらく待ってもサインが出なければ、子どもの手をとって、サインの形を作る身体プロンプト弁別刺激だけでは行動が生起しない場合に、行動の生起を促すために補助的に用いられる刺激。言語プロンプト、視覚プロンプト、身体プロンプトなどがある。言語プロンプトは、音声言語を用いたもので、もっともよく使用される。視覚プロンプトには、文字やイラスト、シンボルといったものから、サインやジェスチュアーといったものまである。いずれも参照することによって、何をすればよいのかわかりやすく示される。身体プロンプトは、身体ガイダンスや介助といった言い方をされることもある。手を添えて行動を促す。を呈示する。「お願い」のサインについてはその物を渡し、「いや」のサインでは取り除く。この指導機会において、サインが定着してきたら、課題や指示の呈示の際にも、サインを促す。「お願い」のサインは両手を軽く合わせる。「いや」のサインは片手を胸の前からわきに移動させる。

ポイント

  1. ほかの子どもに配慮して、おもちゃ箱の位置を決める。休み時間以外は、棚の中の見えないところにしまっておく。おもちゃ箱の中身は定期的に変えていくと動機づけを維持できる。
  2. サインは、子どもの出来そうな簡単な動きを選択する。最初は手を添えるが、徐々にモデルを示す、「なーに」と声をかけるだけにするなど、段階的にプロンプトをフェイディングプロンプトは弁別刺激の補助として使われるために、自発性を高めるためには、なくしていくことが望ましいプロンプトがある。プロンプトが取り除かれても対象者自らが行動を起こすようにするために、それをうまくなくしていくことが重要となる。以下のような方法がある。
    1 プロンプト内のフェイディング:そのプロンプト内の刺激を少しずつなくしていくといったように、同一のプロンプト刺激を構成している刺激を物理的に徐々になくしていく方法。たとえば、他者に援助してもらった際に「ありがとう」というのを教えるときには「ありがとう」というモデルを示すことから始めて、次に「ありが」と声をかけるようにし、最終的に「あ」という手がかりを呈示するといったことがあげられる。
    2. プロンプト階層のフェイディング:複数のプロンプトを階層ごとに用い、最終的にプロンプト刺激を除去していこうとする技法である。これには以下の2種類がある。一つは援助漸減法で、他者からの援助の影響力の強いプロンプトから、その影響力の弱いプロンプトへ段階的に移行させていく方法。2つめは援助漸増法で、他者からの援助の影響力が最も弱いプロンプトから始めて、教えている行動が出現しないならば、段階的に他者からの援助の影響力が強いプロンプトを適用していく方法。
    3. 時間遅延法:プロンプトによって行動が安定して出現するようになったとき、このプロンプトの呈示のタイミングを遅らせて、最終的にプロンプトなしでもその行動が出現するように計画された方法
    していく。また、物を呈示してからすぐにプロンプトを呈示するのではなく、少し待つことによって、その間に子どもの自発的な動きを促す。
  3. 給食中、「いや」と言って食べなくなることに抵抗がある場合は、いったん食べた後のおかわりで「おかわりどっちがいい?」と聞いてみる。