論文

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1.原田晋吾・小笠原恵(2012)行動問題が生起する行動連鎖の再構成―問題場面に適応行動を促す随伴性を組み込むことによる効果― 、東京学芸大学紀要総合教育科学系Ⅱ、第63集145~150頁

本研究は、自閉症児が行動問題を示す状況を行動連鎖の中で捉え、その行動連鎖を再構成することで行動問題がどのように変化するのか検討した。対象となる自閉症児が集団指導中に示す離席行動を軽減するために、適切な行動を引き出すための随伴性として選択機会を設け、介入を行った。その結果、選択機会を設けた介入期において、対象児の離席行動は減少し、活動参加が促され、手続きの有効性が示唆された。

 

2.末永統・小笠原恵(2012)発達障害児の行動問題と競合する適応行動に対する自己管理手続きの検討、特殊教育学研究、第50巻3号、269~278頁

本研究では、一方的なおしゃべり、自傷、物壊し、悪口、食事拒否といった行動を示す広汎性発達障害児1名に対して、自己管理手続きを用いた支援を行った。行動問題と望ましい行動の両方の生起を対象児が自ら記入し、本人の好みを生かした株価に換算したグラフに示すことにより、行動問題の消失と、望ましい行動の増加がみられた。行動問題の生起している環境において、新たに望ましい行動の随伴性を構築する手続きの有効性が示唆された。

 

3.五十嵐一徳・小笠原恵(2013)自閉症児・者における社会的行動への発達支援―セルフマネージメント手続きを中心に―、東京学芸大学紀要総合教育科学系Ⅱ、第64集123~131頁

本研究は、セルフマネジメント手続きを用いて社会的行動の変容を試みた先行研究の記述的レビューを行った。その結果は、対象児・者の特徴、用いたセルフマネジメントの下位スキルやデバイス、対象とした標的行動でまとめた。さらにそれらの関係性を明確にし、セルフマネジメントによる支援を体系化するために応用行動分析学における状況要因―先行条件―行動―後続条件の枠組みに照らし合わせて考察した。

 

4.小笠原恵・広野みゆき・加藤慎吾(2013)行動問題を示す自閉症児へのトークン・エコノミー法を用いた課題従事に対する支援、特殊教育学研究、第51巻1号、41~49頁

本研究は、自傷行動と他害行動を示すことによって授業における課題従事が困難になっている自閉症児1名に対して、トークン・エコノミー法を用いて課題従事を支援した。その結果、課題の従事率は80%を超えたが、行動問題は半減するにとどまった。これらの結果より、本研究で用いたトークン・エコノミー法は課題従事を促進することと、一部の行動問題の低減に有効であることが示唆された。さらに、残存する行動問題について、継次的にその機能を分析する必要性を挙げた。

 

5.小笠原恵(2013)行動障害の評価、臨床心理学、第13巻4号、500~503頁

本研究は、「特集 対人援助色の必須知識 発達障害のアセスメントを知る」のなかの「2 発達障害児者の支援ニーズの把握のためのアセスメント」の1つとして書かれたものである。行動障害の定義について紹介し、行動障害の評価尺度として、AEBA(Achenbach System of Empirically Based Assessment)とABC-J(Aberrant Behavior Checklist日本語版)について述べた。さらに行動アセスメントの方法を紹介し、行動障害の評価において、重要な事項についてまとめた。

 

6.小笠原恵・末永統(2013)広汎性発達障害児が示す暴力・暴言・物壊しの低減を目指した自己記録を中心とした介入パッケージ、特殊教育学研究、第51巻2号、147~156頁

本研究は、日常生活において、他者に対する暴力・暴言や物壊し行動を頻繁に示す広汎性発達障害児1名を対象として、自己記録を中心とした介入パッケージを導入した。介入開始後、標的行動は増減を繰り返しながら消失した。対象児の自己記録行動の維持には、記録方法とバックアップ強化子とが影響することが示唆された。また、行動問題だけではなく、適応行動の自己記録が、行動問題の生起に影響した可能性が示唆された。

 

7.「自閉症児に対する高頻度で生起する要求行動の適切な使用に関する介入―行動の随伴性の分析に基づく指導手続きの効果の検討―」 学校教育学研究論集、第31号、加藤慎吾・小笠原恵

本研究は、特別支援学校小学部6年生の自閉症児に対して、援助の必要ない場面で頻発する要求行動の適切な使用を促すための指導を行った。随伴性の分析によって、本児の不適切な場面で頻発する要求行動は援助を求める機能のほかに、注目を求める機能、逃避を求める機能が推測された。それぞれに機能に対応した指導を行ったところ、注目を求める機能を有する行動には変化がみられたが、逃避を求める機能を有する行動には変化がみられなかった。

 

8.「行動問題を示す発達障害児者に対する研究の動向―望ましい行動の随伴性を中心に―」 学校教育学研究論集、第31号、末永統・小笠原恵

本研究は、行動問題を示す発達障害児に対して、学校・福祉施設・家庭などの生活文脈で行われた研究をレビューし、標的とされた望ましい行動や、行われた先行操作、結果操作について明らかにすることを目的とした。1990~2013年に発表された望ましい行動に基づいて行われた単一事例研究を対象とした。介入場面別に分析を行った結果、標的とされた行動には、既存の文脈で生起するはずであった望ましい行動と、新しく機会を設定して生起する望ましい行動があった。結果操作については、正の強化子による手続きが行われていた。先行操作については、既存の文脈で生起するはずであった望ましい行動は既存の刺激の修正が、新しく機会を設定して生起を促す望ましい行動はプロンプトが用いられていた。

 

9.「知的障害特別支援学校における行動問題の実態と教員の意識調査」発達障害研究、第37巻、第2号、160―173 小笠原恵・湯川英貴・加藤慎吾・末永統、原田晋吾・五十嵐一徳

児童生徒の行動問題の生起に関する実態と関連する社会的な事象、物理的な事象、教員の行動といった環境に関連する教員の意識について、質問紙調査を行った。障害程度区分による行動関連12項目を用いた質問紙と教員の意識に関する質問108項目からなる質問紙の2種類を用い、教員に回答してもらうこととした。知的障害特別支援学校19校、計807名の教員及び2585名の児童生徒が対象となった。その結果、教員の意識に関する22項目に行動問題の生起との相関が認められた。行動問題に対して、原因がわかっている場合に正の相関が、注意等の直接的対応に負の相関がみとめられた。さらに、授業中や休み時間における配慮や教員の工夫に関する9項目、および騒音や広さといった教室環境と行動問題の生起に正の相関が認められた。

10.「機能の特定が困難な行動問題を示す特別支援学校中学部の自閉症生徒に対するDRLとトークンシステムを併用した介入の効果(2015)」加藤慎吾・小笠原恵 臨床発達心理実践研究、10,194―202

本研究では、数年間にわたって激しい他害行動、自傷行動を示してきた特別支援学校中学部の自閉症男子生徒に対して介入を行った。機能の特定が難しい行動問題に対する、低頻度行動分化強化(DRL)とトークンシステムを併用した手続きの効果と実行のしやすさを検討することを目的とした。介入の結果、他害行動、自傷行動ともにその頻度は大きく低減された。さらに、支援実施者である担任教師が正確に支援を行ったことを示す実行度も高く維持された。

11.加藤慎吾・小笠原恵(2017)知的障害特別支援学校の教師が行動問題支援過程において直面する困難の検討、特殊教育学研究、54(5)、283-291

知的障害特別支援学校の教員が機能的アセスメントに基づいた行動問題支援を行う際に直面する困難について調査した。行動問題支援に関する学習会に自主的に参加した教員17名を対象とした。結果として、①問題となる行動についての情報収集、②行動の記録、③計画の実行に関する具体的な困難が明らかとなった。

12.原田晋吾・小笠原恵(2017)知的障害児の選択行動に関する実態調査―選択場面で示す行動特性の分析から―、特殊教育学研究、54(5)、293-306

知的障害のある児童生徒が選択場面で示す行動特性を明らかにすることを目的として、知的障害特別支援学校の小学部から高等部までの学級担任をしている教員を対象とした質問紙調査を実施した。その結果、選択肢への注視行動や視覚による比較行動、選択文脈の理解について不安定な状態を示す児童生徒が存在し、それらの児童生徒への支援が必要であることが明らかになった。

13.原田晋吾・小笠原恵(2017)知的障害を伴う自閉症児に対する教示要求行動の指導に関する一考察―複数の未知刺激が同時に存在する状況での指導効果の検討―、発達障害研究、39(3)、275-287

1名の自閉症児を対象に、見本合わせ課題のなかで複数提示された比較刺激中の未知刺激に対する教示要求行動の指導を行った。モデル呈示と段階的なプロンプトにより、教示要求行動の自発生起率が高まり、既知刺激には正しく反応し、未知刺激には教示要求行動を示すという分化的な反応が形成された。また、複数の未知刺激が同時に存在する場合に、課題解決に必要な言語情報が得られるまで繰り返し教示要求行動を示す様子が観察された。