実践例:授業中に教室から飛び出してしまう小学校2年生男児

実践例:授業中に教室から飛び出してしまう小学校2年生男児

ワークシート1:(基礎情報)

おわかりになる範囲でご記入ください。

年齢 8歳
性別
診断名 ダウン症 知的障害
所属 公立小学校 特別支援学級 第2学年
知能検査 検査名 田中ビネー
検査結果 IQ58
特徴 身辺は自立している。発語は不明瞭であるが、3語文程度の会話をする。ルーティンであれば、教師の全体指示で動くことができる。とても人懐こく、友達や先生が大好きである。運動制限はなく、体を動かすことも大好きである。
児童は8人、支援員を含めた教員は4人である。
休みの日は、近所の祖父の家に行くことと自転車に乗ることダンスサークルに行くことを楽しみにしている。

 

ワークシート2:(MASDurand とCrriminsが1988年に発表した、行動問題の機能を探るための質問紙。16の質問項目からなり、7段階のリッカートスケールで評価を行う。評価の結果をもとに、物や活動の獲得要求、注目要求、逃避要求、感覚要求の4種類の機能のいずれが当該行動の機能である可能性が高いのか、推測することができる。主観的な評価ではあるが、信頼性や妥当性が確認されている。

お子さんの 自分の頭を叩く という行動についてのMASの採点結果

感覚要因 逃避要求 注目要求 物や活動の要求
1. 2. 3. 4.
5. 6. 7. 8.
9. 10. 11. 12.
13. 14. 15. 16.
合計= 15 19
平均点= 1.25 3.75 4.75 1.25
順位=

ワークシート3:(行動問題の特徴)

気になる 教室を飛び出す という行動について以下の質問項目にお答えください。特に何らかの傾向がなかったり回答することが難しい場合は無記入でも構いません。

1. その行動はいつ起こることが多いですか? 授業中
2. その行動はどこで起こることが多いですか? 授業中の教室
3. その行動は誰に対して、あるいは誰と一緒のときにおこることが多いですか? 教師とクラスメイト。いつものメンバー。
4. その行動は何歳くらいから始まっていますか? 今年度の6月から。(半年前)
5. その行動はどのくらいの頻度で起こりますか?
(たとえば、1日に2,3回、1時間に1,2回、1週間に1,2回など)
1日を通してない日もある。多い日は10回以上。1時間のうちで何回も出ていくことがある。
6. その行動はどのくらいの強さで起こりますか?
(たとえば、隣の部屋に聞こえるくらいの声、叩いたところが青くなるくらいの強さなど)
7. その行動が起こっている様子を具体的にご記入ください(「他害」というのではなく、頭を自分のこぶしで叩くなど) 声をかけるとすぐに戻ってくる時や、廊下で追いかけっこになるときもある。叱って反省したように見えてもすぐにまた教室を出ていくこともある。
8. その行動に対して、どのように対応しますか?
該当することに○をしてください
注意する、教室に戻す
9. その行動は上記の方法で収束しますか? 一応収束する。またすぐに行う時もある。
10. その行動はどのくらいの時間続きますか? 数秒から1分程度
11. その行動と関連していると思われる項目があれば、○をして具体的に記入してください。 集団の大きさ(個別学習の時は出ていくことはない)
指導形態など(個別学習以外でも音楽、体育では逸脱することはほとんどない)
12. お子さんが特に興味や関心の高いことは何ですか?また、こだわりはありますか? 人と関わること、走る、体を動かす、ダンス、音楽など
13. お子さんが苦手なことや嫌いなことはどんなことですか? 話を長い時間聞くこと(集会など)
14. お子さんの主となるコミュニケーション手段は何ですか? だいたい言葉で伝わります。(ジェスチャーは多用しますが)
15. 左記の項目において、お子さんの好きなことがあれば、具体的にご記入ください。 遊び(体を動かすこと、音楽を使った遊び)
キャラクター(トーマス)
歌手(みんなのうた系)
食べ物(何でも好き)
趣味(音楽のDVDを見ること)
その他(お姉ちゃんの真似)
16. お子さんが人とのかかわりで喜ぶことはどんなことがありますか?先の項目において該当することがあれば具体的にご記入ください 人と関わることは何でも喜びます。怒られていても喜んでいるような時もあります。

 

ワークシート5:(スキャッタープロット)

観察する行動: 教室を飛び出す行動(学校)
観察開始日:12月2日(月)  観察終了日:12月6日(金)

数字の意味:教室を飛び出した回数

活動 時間 12月2日(月) 3日(火) 4日(水) 5日(木) 6日(金)
1時間目 9:00~9:30 朝の会 朝の会 朝の会 朝の会 朝の会
1回 0回 0回 1回 1回
2時間目 9:35~10:20 ことば 図工 体育 生単 ことば
4回 0回 0回 2回 4回
3時間目 10:40~11:25 音楽 図工 体育 生単 体育
0回 1回 0回 1回 0回
4時間目 11:30~12:15 生単 かず ことば(個別) ことば 体育
0回 2回 0回 6回 0回
5時間目 13:35~14:20 かず 生単 音楽 かず(個別)
2回 1回 0回 0回

授業ごとの45分あたりの平均回数

授業名 観察時間 回数 平均(45分あたり)
朝の会 150分 3回 0.9回
ことば 135分 14回 4.7回
ことば(個別) 45分 0回 0回
かず 90分 4回 2回
かず(個別) 45分 0回 0回
音楽 90分 0回 0回
生単 135分 3回 1回
図工 90分 1回 0.5回
体育 135分 0回 0回

ワークシート7:(頭の中のアセスメント)

ワークシート7:(頭の中のアセスメント)

ワークシート8:(ABC分析)

行動問題の直前に起こっていることをきっかけの箱に、具体的な行動を行動の箱に、行動の直後に起こった結果あるいは周囲の対応について結果及び対応の箱に記入しましょう。ほかの人がみても書いた人と同じことを思い浮かべることができるように書くことが大切です。行動問題が起こる状況がたくさんある場合には、必要に応じて、箱を増やしてください。

きっかけ 行動 結果および対応
授業中(特にことばの時間)、つまらない(もしくは、難しい)課題の提示 教室を飛び出す 課題をやらなくて済むことがある。
きっかけ 行動 結果および対応
授業中(特にことばの時間)、先生からの注目が少ないとき 教室を飛び出す 先生に追いかけられる。注意される。

支援計画

支援方針

  1. 本児の興味・関心、認知発達を考慮した課題に変更する。
  2. 課題に取り組むなどの適切な行動に対して、賞賛する。
  3. 授業中に教室から飛び出しても、注意したり追いかけたりすることは最小限に留める。
アプローチ方法
きっかけ 行動 結果および対応
楽しい、分かる課題の提示 課題に取り組む 先生から褒められる。
課題に取り組むこと、達成することが楽しい。
行動 結果および対応
教室から飛び出す 以前のように追いかけられたり、注意されたりしない。
  • 本児はどの授業でも同じように教室を飛び出しているわけではない。特に「ことば」の授業で教室を飛び出すことが多いことが分かった。MASの結果からも、人からの注目を得ることと嫌なことから逃避することが、行動を引き起こす要因であることが推測された。そこで、「ことば」の時間の活動や課題を本児にとって楽しく分かりやすいものに変更すること。活動や課題に取り組めたときに、十分注目を与える。
  • 体を動かしたり、道具を扱ったりする課題が多い「音楽」「体育」「図工」の時間には、教室から飛び出すような行動はみられなかった。「ことば」の時間にも、そのような要素を入れる。例えば、座りっぱなしではなく、時々黒板に何かを貼ったり書いたりするために立って動くことのできる活動を入れる。または、カードのような自分で操作ができる具体物を用いた課題を入れることなどが考えられる。
  • もし、教室から飛び出しても大げさに追いかけたり注意をしたりしない。必要最低限の声かけで教室に戻す。