子どもひとりひとりの強化子の探し方

子どもひとりひとりの強化子の探し方

子どもに適切な行動を教えたいとき、指導者は予め強化子を準備しておくと指導を効率的に進めることができます。

子どもが適切な行動をとった直後に、指導者は子どもに強化子を与えます。そうすると、子どもはまた同じ行動を繰り返し行おうとします。

指導に強化子を用いることは、指導効果を高めるだけでなく、子どもたちが楽しみながら指導プログラムを受けるための手立てにもなります。

子ども達の好きな物が1人1人異なるように、強化子として機能するものも異なります。くすぐることが大好きで、それが強化子になる子どももいれば、音楽プレーヤーで曲を聴くことが強化子になる子どももいます。子どもの強化子は多種多様です。それでは、目の前の子どもの強化子を見つけるためには、どうすれば良いでしょうか?特に、重度の身体障害がある子どもや、行動のレパートリーが乏しい子どもの場合、強化子を見つけることが困難なことがあります。

このコーナーでは、そのような子どもたちの強化子の見つけ方について、いくつかの方法をご紹介します。

日常場面の注意深い観察から強化子をみつける 支援者からの聞き取りで強化子をみつける 統制された場面を設定し、実験的に強化子をみつける
おまけ:強化子を作る 支援者からの聞き取りで強化子をみつける

①日常場面の注意深い観察から強化子をみつける

子どもの1日の生活の様子を注意深く観察します。
1日の中で、子どもが最もよく従事している活動や、よく手にしているアイテムなどがあれば、それを指導場面の強化子として使用することができます。

例)学校から帰宅した後のあきらくんの家での過ごし方を観察し、記録をとりました。すると、夕食後に必ずリビングでカラースプリングを手にして遊んでいることがわかりました。伸びたり縮んだりして、色が変化するのを見ることが好きなようです。もし、あきらくんに、個別学習場面で「チョーダイ」という要求のことばを指導しようとするならば、指導者は要求対象物の一つとしてカラースプリングを用意すると良いでしょう。

この方法の長所は、日常場面を観察しておくことで、日々変化する子どもの好みについて情報が得られることです。
この方法の短所は、強化子をみつけるために多くの時間と労力を要する点にあります。長時間の観察を行い、さらに大量の記録をつけなければならず、早急に強化子をみつけたいというときは、日常場面での行動観察による方法は適していません。

②支援者からの聞き取り(インタビュー)で強化子をみつける

子どもの強化子を探すために、まずはその子の好みに関する情報を集めると良いでしょう。その子のことを最もよく知っている支援者(家族や教師など)にインタビューを行うことで、有益な情報を得ることができます。
また、場所が変わると、子どもが好んでいるアイテムや活動も変化することがあります。ケース会議などを開く機会があれば、出席している支援者がそれぞれの立場から子どもの好みについて意見を出し合うとよいでしょう。

例)ゆかさんは、療育機関での指導場面で、静かにじーっと座っていることが多く、玩具が与えられれば、どんなものでも手にして遊ぶ様子がみられました。そのため、療育機関のスタッフは行動観察による強化子の選定ができませんでした。そこで、家での様子を母親にインタビューすることで、好きな活動やアイテムを聞き出すことにしました。母親は、「家ではよくアニメのシール絵本を見ている」と答えてくれました。そこで療育機関のスタッフは、シール絵本を用意して、その日のセッションの課題を全て達成したら、残り時間はシール絵本を使って自由に遊ぶ時間としました。

インタビューによる方法にも短所があることが指摘されています。
それは、インタビューに答える支援者(家族や教師など)は、子どもが最も好きな活動やアイテムなどを的確に特定できても、2番目、3番目に好きなものはそれほど正確に特定できないことがあるということです。

③統制された場面を設定し、実験的に強化子をみつける

直接観察や支援者へのインタビューに頼らずに子どもの好みを知るための方法を、多くの研究者が開発してきました。個別指導室など統制された場面の中で、様々なアイテムを決められた方法で提示し、子どもの反応を観察するといった方法で強化子を選定することができます。それらの方法の中から、いくつかを紹介します。

子どもの自由接近の観察する

子どもが利用できるアイテムや活動を部屋にいくつか配置し、子どもがどのアイテムに接近するかを観察し、記録します。接近が多いほど、そのアイテムに対する好みは高いと判断します。歩行が難しい子どもの場合は、車椅子のテーブルに複数のアイテムを配置し、手を伸ばした回数をカウントして好みアイテムを調べます。

具体的な手続き:6つのアイテムを同時に部屋に配置する。1つのアイテムを手にすることができる環境で、子どもがどのアイテムに接近したか、10〜20秒ごとに記録をとる。最もよく接近したアイテムは、好みの高いものであるとする。最も好みの高いアイテムが同定できたらそれを取り除いて、残りの5つのアイテムで同様に観察・記録を行う。次に接近回数が多かったものが2番目に好みの高いものである。これを繰り返すことで、好みのランキングを知ることができる。

子どもの選択を観察する

アイテムや活動の選択機会を設け、子どもがどれを頻繁に選択するかを観察し、記録します。このとき、選択肢は2つ(ペア提示)が基本です。子どもがいずれかの選択肢を選んだら、その直後にそれで遊べる時間を5秒〜3分程度作ります。組合せを変えてペア提示を繰り返すことで、最も好きなアイテム、2番目・3番目に好きなアイテムを特定することができます。この方法は、就労支援の中で、子どもがどのような仕事を好んで取り組むかを調べるときにも利用されます。

具体的な手続き①:16のアイテムを用意し、全てペア提示する。子どもが手を伸ばしたり接近することでいずれかのアイテムを選ぶと、5秒〜3分程度それを使って遊ぶことを認める。ペア提示の時間は5秒間で、その間に選ぶ行動が見られない場合は、アイテムを取り下げて他のペアを呈示する。ペアの全組み合わせが提示されるまで、これを繰り返す。評価の基準としては、「選択率が80%以上=強い好み、50-80%=並の好み」とする。

具体的な手続き②:2つのアイテムを提示する際に、前回の選択機会で選ばれたアイテムと、新しい選択肢となるアイテムを提示する。全てのアイテムが選択されるか、もしくはこれ以上選択が行われないと思われるまで、このペア提示が続けられる。この手続きを用いると、好みの明確な順位を短時間のうちに調べることができる。

具体的な手続き③:ひとつのアイテムを提示し(アイテムの単一呈示)、それに接近できる機会数の何割でアイテムに接近したかを測ることで、相対的な好みを査定する。明確な指差しやことばで選択することが難しいケースで利用できる方法。

④おまけ:強化子を作る

「なかなか好きなもの(こと)がみつからない」という場合も少なくありません。その場合、強化子を作る、という発想が必要なこともあります。ここでは、派生の原理好子や嫌子が現れると、その時、そこにいた人やそこにあった物、状況などが好子化したり、嫌子化したりすることを派生の原理がはたらくという。パブロフのレスポンデント条件づけでは、遺伝的な反射が派生の原理によって、他の刺激によっても引き起こされるようになることを示している。を用います。子どもが望ましい行動をした後に、1次性の強化子を用いて強化を行います。その際に、別の強化子となりえるものを対呈示します。この手続きを繰り返すことによって、1次性の強化子がなくても、別の強化子となりえるものによって行動が生起するようになります。難しければ、第3、第4の別の強化子を対呈示します。この手続き、厳密には、作り出すとはいえないかもしれませんが、、